ベータ研究所代表の川上泰弘です。投資家の皆さんはそれぞれご自身のリターン目標があるかと思います。では、その目標リターンは適切なのでしょうか。単純な質問ですが、実に難しい質問です。
例えば、Aさんは投資でお金をたくさん稼ぎたいと思っています。では、Aさんの目標リターンは何%ぐらいが妥当なのでしょうか。一年間で+10%稼げたらよいのでしょうか。それとも+50%は稼がないとだめでしょうか。
それを考えるのにあたり、突然ですが、世界最大の機関投資家はだれかご存じでしょうか。
答えは、日本にいる人々のために年金運用を行っている年金積立金管理運用独立行政法人です。日本の組織ですが、英語表記での頭文字をとって、GPIFともいわれます。年金保険料から集められた公的年金積立金を運用している機関で、約170兆円という巨額の資産を運用しています。(167兆5,358億円、2020年度第2四半期末現在)。その規模から当然のことながら金融市場では非常に大きな影響力を持っており、世界一の「クジラ」と呼ばれることもあります。
今回、その機関投資家の運用を覗いてみたいと思います。
では、そのGPIFのこれまでのパフォーマンスはどのような感じなのでしょうか。以下のテーブルをご覧ください。2001年度から2019年度までの19年間のそれぞれの年のリターンと、19年間の期間にわたる年率リターン(1年間換算のリターン)が示されています。19年間の年率リターンは円建てで+2.27%でした。
「そんなものなの?」という声が聞こえてきそうですが、実はこれ、目標を十分に達成しています。
GPIFの運用目標は、厚生労働大臣が定めた「中期目標」において、「長期的に積立金の実質的な運用利回り(積立金の運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)1.7%を最低限のリスクで確保すること」が要請されています。
言い換えると、GPIFの長期的な運用目標は以下の式で表せます。
GPIFの長期的な運用目標 = 賃金上昇率+1.7%
同じ19年間の賃金上昇率の平均は年率でマイナス0.16%でしたので、先ほどの年率リターン+2.27%は、1.7%と‐0.16%を合わせた目標を上回っており、立派なパフォーマンスです。
ここで覚えておいていただきたいのが、投資判断の際は、「リターン」(損益)と「リスク」(価格の変動幅)は表裏一体であるということです。損益の目標を高く設定するとどうしてもリスクが上がってしまいます。高いリターン目標を設定するということは、リスクが上がっていくということです。それは、ある日突然とてつもない損失が出る可能性が高まるということです。
GPIFは、目標リターンをあらかじめ設定し、それに伴うリスク量を最小化するように努めています。
一般の投資家の皆様におすすめなのは、その反対の方法でご自身のリスク量を把握したうえで、そのリスク量にふさわしいリターンを狙うという方法です。つまり、目標リターンの設定にあたってはご自身が取れるリスク量を把握することが最初の一歩になります。
先ほどのAさんのケースでは、Aさんのリスク量によるということです。Aさんの預金口座は日々の支払いでカツカツであれば、リスクはほとんどとれません。ちょっと損失が出ると、その損失をカバーするために生活が回らなくなってしまうからです。一方で、Aさんが余裕資金を運用されているようであれば、多少のリスクはとれるということになります。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴うロックダウンなどの影響から市場が大きく変動しました。来年の市場動向に備えるうえでも、是非、ご自身の現在の投資を投資の水先案内人であるIFAと一緒に棚卸ししてみてください。
今後も不定期ではありますが、引き続き投資に関するお話をご紹介していきます。お楽しみに。本年も大変お世話になりました。よいお年をお迎えください。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
(川上泰弘, CFA, FRM)
(出所:年金積立金管理運用独立行政法人 「GPIFの運用目標」)